世界中企業の株主所有関係(支配関係)の解析とバックボーン抽出の論文

Backbone of complex networks of corporations: The flow of control
J.B. Glattfelder, S. Battiston
http://arxiv.org/abs/0902.0878

レフリーによめといわれた論文.


概要:

基本的には,様々な国の企業の株主の所有ネットワークの違いの解析.
そこで使用されたネットワークのバックボーン(主要な部分)
をとりだす技術の提案.
彼らによると,重みつきの有向ネットワークでかつ
各ノードに正値が割り当てられたネットワークに適応できる.
結果としては,バックボーン抽出→各国のバックボーンのネットワークの分類指標の提案→適応→分類の結果,アングロサクソン国は株主ネットワークの特徴が他の国と違う(それ以外にアグロサクソンが他と異なる特徴量もある).

その他のみどころ?

  • バックボーン抽出法の他,支配関係によるネットワークの分類,次数を拡張した支配の指標,間接支配も考慮した支配力指標,

一国の株価の支配率の指標,なども提案 or 紹介している.)

  • 分類法が面白い.出自側と入次側の違いをうまく使っている.
  • アングロサクソン国(アメリカ,イギリス,オーストラリア)は,

支配される側からみると多くの株主に分散されて支配されている(たくさんの支配者がいる.色々な人とおつきあい.),
一方,支配される側に対して,支配する側の人数じたいは少ない; つまり,少数の重要な支配者が多くを支配している.欧州は逆の傾向がある(支配される側は一定の人に集中して支配するが,支配者はたくさんいる.)日本は,支配される側は特定の人としか付きわない. かつ,支配者は少ない(すくない支配者がたくさん支配している).

わかりやすく書くと,

部下は(株,企業)をさまざまな上司から均等にに監督される.(N:N)

  • 欧州は,

たくさんの上司がいる.
部下(株,企業)は特定の上司に監督される. (1:1構造)

  • 日本は,

上司の数は,少ない.
部下は,特定の上司に監督される.(系列構造,1:N)

2. データセット

orbis 2007 48カ国の株の所有情報.国別に解析する.
24877会社(株式の種類),545896(オーナー).
重みデータW[i→j] jのiの所有率. 制約Σ[i]W[i→j]=1

3. ネットワーク構造解析

A. トポロジカル解析
LSCC解析→あまりbow-tie構造の国はない.
bow-tieの例 小さいbow-tie 韓国,台湾,+日本? (系列企業)
       大きいbow-tie数は少ない,アメリカ,オーストラリア,イギリス(アングロサクソン

B. 拡張した次数の解析

  • ストレングスk(拡張した次数)

k[i]=Σ[j]W[i→j]

  • 集中指数s(支配者はたくさんいるか?少ないか?)

s[j]=({Σ[i]W[i→j]}^2)/(Σ[i]W[i→j]^2)

独占のとき, s[j]=1
数が無限大で平等のとき,∞.
つまり,イメージ的には入次数的なもの(何人に支配されてるか?).
実質的に支配者が多いほど,この指数が大きくなる.
Herfindahl index の逆数(経済学の市場占有の指標0-1)
http://en.wikipedia.org/wiki/Herfindahl_index
他のイメージでは,分散の逆数(情報量).

  • 支配指数h(その企業の直接支配力はどのくらいか?)

h[i]=Σ[j]H[i→j]
ここで,Hはiがjに対してどれくらい重要かをあらわす指標
H[i→j]=W[i→j]^2/Σ[l]W[l→j]^2
である.
H[i→j]は0から1をとる.
H[i→j]=1 で完全支配.
→所有比率2を2乗している→2乗する意味が分らない.

C. k,s,hの分布
→こいつの分布を色々な国で比較.

D. ネットワーク以外の指標の導入.

  • 各株のマーケット価格v[i];
  • iが持っている株の総量

p[i]=ΣW[i→j]v[j]

  • おもみつき支配

(所有比率を2乗して,強調してる→2乗する意味が分らん.).
c[i]=ΣH[i→j]v[j]
→株価が大きい企業を支配していほうが強い.

  • 遠くまで考慮した総支配率の定義

W'[i→j]=W[i→j]+Σ[n]W[i→n]W'[n→j]
で再起的に定義.
意味は,i→jの総支配力は,直接支配力W[i→j]と
iが支配している企業nの総支配力W'[n→j]の和になる.
これを解くと,
W'=((I-W)^-1)W
となる.
Hでも同様に定義できる.
H'=((I-H)^-1)H
これより,各ノードの株価重みみつき総支配力(間接支配を含む支配力)は,
c'[i]=Σ[j]H'[i→j]v[j]

4. バックボーンの特定法(たぶん).

A. 累積コントール.
B. バックボーンの抽出

                                                                                        • -

(0)ローカル支配率δ; 市場支配率Θ'を決める(任意の値).
(1)すべての株式所有者についてc'[i]を計算する.
(2)すべて所有者ノードの集合をつめたものを{i}とする.
(3)被支配集合を{PF},支配集合を{s}とする.
(4)以下の繰り返す,
(a)c'[i]の一番大きいものをとりだす.そのindexをiとする.
(b){s}にiを加える.
(c){PF}に{s}に含まれてるいずれか一つの企業に支配率δ以上で支配されている企業をすべて加える.
(d){PF}に{s}に含まれてるいずれか2つ(所有率の上位2社)の企業に支配率合計δ以上で支配されている企業を加える.
(e){PF}に含まれる企業の合計の株価PFVを求める.
PFVが市場支配割合Θ'×総市場金額に到達したら繰り返しおわり.
(5){s}と{PF}の和集合がネットワークのバックボーン.

                                                                                                    • -

論文では,δ=0.5, Θ'=0.8 とした.

意味は,市場に影響力のある企業とそれに強く支配されている企業を
すこしずつ加えていき,一国の全市場価値の8割になるまでつづける.
これでネットワークの支配上で重要な企業がわかる.

  • η^も支配構造を特徴づける指標となる.

η^は,全企業のどの程度の割り台 Θ'=0.8 の国内の株価を
支配できるかという指標.ηがちいさければ,国内レベルで少数支配.
ηが大きければ,多数支配.η^=8割株主数/総株主数なので,
総株主数が大きければ小さくなる.

C. 一般化
本手法は,以下の条件の有向のおもみつきネットワークに適応できる.
(i)各ノードに正値v[i]が割り当てられている.一番端だけは0より大きい.
(ii)W[i→j] jからiになにかが運ばれる.

ここで, v[i]がかく時間わきでる量.
φi(t+1)=Σ[j]W[i→j]v[j]+Σ[j]W[i→j]φj[t]
このφの定常状態を上記のc’におきかえ計算.

D. 分類法.
ネットワーク全体の平均の<s>とネットワーク全体の平均<h>で
ネットワークを分類する(バックボーンのみ).
たとえば,<h>が小さく<s>が小さいのは,支配と被支配が一対一の
関係にちかい. <h>がおおきく<s>が小さいのは,支配者が少なく,
被支配者が多い.つまり,ひとつの支配者が複数を支配する.
一方<s>が大きく,<h>が小さいのは,たくさんの人に支配されているが,一人一人の支配はすくない(たくさんのちいさい人が分散して支配).<s>と<h>もおおきいのは、支配被支配ともたくさんいる.

5. バックボーン解析

A. 世界中の集中支配.
上記の分類法をネットワークのバックボーンに適応する.各国ごとに
上記の指標をしらべ,2次元にプロットする.
結果は,たとえば,日本は, <s>が小さく, がおおきい,これは親企業(少数支配者)が系列企業をたくさん支配しているとかんがらえる.
一方,アメリカやオーストラリアやイギリスは(アングロサクソン)は,<h>がおおきく,<s>もおおきい.つまり,たくさん支配する人も,たくさんの人に支配される人もいる.
B. 椅子の力
さまざまな国で共通してバックボーンにはいっている企業や個人や抽出することで,世界中の影響をしることができる.
結果は,バークレイキャピタルとかバフェットとかでてきた.

6. まとめ

まとめ.


んー,バックボーン的には,
支配力が強いの支配された弱小の企業ほど優先されて
バックボーンに入るから,
支配力が強いのを優先するバックボーン解析になる.
まぁ,完全支配の場合は,ひとつの企業と含めるからバックボーンと
いっていいんでしょう.



ただ,入次数と出次数の違いをうまーく使った分類法は面白い感じ.
例えば,話しかけ関係でいうと,
軸1(入次側の特徴): 特定の人からはなしかけられないか,たくさんの人からはなしかけるか?

軸2(出次側の特徴): 話しかける人は,一人にばかり話しかけるか,たくさんの人に
話しかけるか.(話しかける人/話かけられる人)

で分類する.


取引の例だと?
軸1 特定の企業からだと金が入ってこないか?
軸2 特定の人にだけお金を払うか?

もし,系列(ピラミッド構造のツリー)だと,
軸1は小さく,軸2は大きくなる.
もし,そのような構造がないランダムな取引だと,
軸1は中くらい,軸2 は中くらいになる.

もし,バラバラのネットワークに小さい取引構造があるとすると,
軸1も小さく,軸2も小さくなる.